カルチャー  カルチャー 2018年5月2日 更新 お気に入り追加 2

今更聞けない!醸造アルコールの話

Kosuke Takayanagi Kosuke Takayanagi

〜日本酒愛の伝道師〜 国際唎酒師&SAKE DIPLOMAの高柳宏介が提案する美味しい日本酒のある生活。Instagramでは@sake_evangelist としてオススメの個別銘柄やお店の紹介をしています。さて今回は、誤解されがちな存在No.1「醸造アルコール」の話を少ししたいと思います。

純米信仰の時代は終わった

「良い日本酒の条件て何だろうか?」

この条件に「純米であること」を含める人は今も少なくない。だがしかし僕は声を大にして言いたいのです。

「純米信仰の時代は終わった!」と。

確かに純米酒には純米酒なりの良さがあることは間違いないです。しかし、醸造アルコールが入っていたら良い日本酒、美味しい日本酒ではなくなるのか?と言うと全くそんなことはありません。

つまり、酒の品質において純米か否かというのは現代の日本酒世界においては大した問題ではなく、造り手が表現したい味わいの手段として醸造アルコールを入れるか入れないかという違いしかないのです。

言い換えるなら、醸造アルコールを入れることで初めて表現できる味わいもあるということです。

そもそも醸造アルコールって何?

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さてここで、醸造アルコールとは何なのか今一度おさらいしたいと思います。

簡単に言うとサトウキビなどの原料の糖蜜をアルコール発酵させ、その後蒸留して作られた食用アルコールのことです。
無味無臭の焼酎みたいなものをイメージしてもらえれば良いかと思います。

何で醸造アルコールを入れるの?

ここ飲み手としては大事なポイントですよね。
現代の酒造りにおいては大きく2つの目的があります。

目的①:吟醸香を立たせやすくする

吟醸酒や大吟醸などの日本酒はその特徴の一つに「華やかな香り」が挙げられます。吟醸系の日本酒から果物の様な香りがすることありませんか?

この芳香の成分はエステル類(有名なところだと「カプロン酸エチル」「酢酸イソアミル」「ソトロン」など)のものが多く、これらは水に溶けにくい性質を持っています。

そのため、醪の中に醸造アルコールを入れることで醪中の香気成分が引き出され、日本酒内に移しやすくなるという特徴を持っています。

目的②:酒質が安定し口当たりがクリアになる

醸造アルコールには酒質を安定させて日本酒のキレを良くし、口当たりを軽快にしてくれる効果もあります。なので、舌に残る甘さやベタッとした感じが苦手と言う方には醸造アルコールの入ったタイプの日本酒をオススメします。

これも一概には言えませんが、多くの場合醸造アルコールが入っていると味わいがシャープになり、綺麗な日本酒になりやすい傾向にあるかと思います。

つまり醸造アルコールは、品良く香りを立たせながら、口当たりをクリアにするという役割を担っています。

純米酒では味わいが重すぎるから軽くしたい、余韻に締まりを持たせたい、など理想の造形を目指す手段として使われるのがこの醸造アルコールです。
日本酒は杜氏が造り上げる芸術品でもありますので、彼らが目指す姿へ至るための一つの方法として機能しており、使い方によっては純米酒では出せない良さを引き出すことができる技術でもあるのです。

余談ですが、日本酒に別のアルコールを入れる方法は江戸時代の頃からある方法です。

当時はまだ腐造といって、造っている途中で日本酒がダメになってしまうことが多々あり、それを防ぐ殺菌の目的で「柱焼酎」と呼ばれるものが使われていました。

なのでアルコールを加える工程は昔からあった醸造技術の一つなんですね。

では何故嫌う人が多いのか?

せっかく良い仕事をしてくれる醸造アルコール、なんでこんなにも避けようとする人が多いのでしょうか。その理由は少し昔に遡ります。

太平洋戦争の前後、米不足が深刻になる中で生まれた「三倍増醸酒」。これが醸造アルコールに悪いイメージを与えた最たるものと言っていいと思います。

「三倍増醸酒」は米から生成されるアルコールの約2倍の量の醸造アルコールを添加して水増しし、結果的に3倍の量のお酒を造るというところから名前がつきました。

そして時代は流れ、純米酒ブームが来ると同時に、醸造アルコールが入ると安酒だと思われる様になってしまったというわけです。そうせざるを得ない時代背景があったものの、それが今も尾を引いてしまっているのはとても残念なことです。

これからの日本酒の選び方

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