カルチャー  カルチャー 2018年5月25日 更新 お気に入り追加 0

低精米日本酒の魅力〜米を削らない美学〜

Kosuke Takayanagi Kosuke Takayanagi

〜日本酒愛の伝道師〜 国際唎酒師&SAKE DIPLOMAの高柳宏介が提案する美味しい日本酒のある生活。Instagramでは@sake_evangelist としてオススメの個別銘柄やお店の紹介をしています。さて今回は、精米歩合に関連するお話。米を削るのか削らないのか、そこに造り手の美学が現れる。今回は低精白編!

精米歩合って何だっけ?

精米歩合とは要するに“お米をどれだけ削ったか”の指標です。

数字が小さくなればなるほど原料のお米も小さくなります。呼び方として、よく削ったものを「高精白」、あまり削らないものを「低精白」と呼んでおり、日本酒の味わいに少なからず影響を与えています。
Ex. 精米歩合20%=高精白、精米歩合80%=低精白

それは何故か、お米の成分のは粒の中全体に満遍なく広がっているわけではないからなんですね。

表層に近いところにはタンパク質や脂質が多く、中心部に向かうほどでんぷん質の割合が高くなることが影響しています。

タンパク質は醸造過程でアミノ酸となり日本酒の旨味成分となりますが、これが強すぎると雑味となってしまいます。

しかし、昨今の醸造技術の進歩は、その強い旨味成分などを活かしきることで新しい日本酒の世界の表現に成功している蔵も出ていています。
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なぜ米を削らないのか

“米を削ることは、個性を削ることだ”

吟醸酒ブームや淡麗系の日本酒がもてはやされる中で生まれた高精白人気、削り合戦に一石を投じたいと思う蔵元が出るのも不思議ではありません。

高精白の日本酒にしか出せない(と言われている)個性もありますが、やはり原材料である米そのものの個性を追求するのであれば、削らないという選択肢が生まれることは必然だったのかなとも感じるくらいです。

ワインであれば葡萄を削ることなく、原材料の持っている全てを使用します。ある種、葡萄があればできてしまう単純な醸造酒(単発酵)だけに原料の個性が出やすい側面があるかもしれません。

しかし、日本酒の場合は米だけでは完成し得ない複雑な醸造種(並行複発酵)です。何より、最も多い成分は“水”ですし、味わいや香りの点では麹や酵母の働きが大きく関係してきます。

ですから、日本酒という完成品の中に“米の個性”を端的に見出すことは、ワインと比較しても、その素材と発酵の複雑性の点で非常に難しくなります。

だからこそ、少しでも米の個性や力を発揮させるべく、“削らない”という方法が選ばれたのだと思います。

お米を削らない価値

昨今の醸造技術の発達により、低精白日本酒の味の幅は大きく広がりを見せています。今の時代、「低精白=重い、濃い、甘い」と考えるのは早計です。

精米歩合80%を超える日本酒ですら綺麗な酸とピュアな透明感が表現されており、「!?」と驚く人もいるずです。

そして一方で、米の旨みや芳醇さをしっかりと押し出した濃い味わいのものも登場しています。

こうした取り組みこそ、日本酒は米からできているのだと強く私たちに認識させてくれる低精白の日本酒は、日本やその地域の気候風土をその味や香りを通して私たちに伝えてくれるのではないでしょうか。

そして今後、削らないことで生まれた個性や魅力は特別な価値を持って市場に出回るのだと思います。

有機米で造られた低精白日本酒

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例えば、こちらの奈良県の美吉野醸造の日本酒
「南遷 有機無添加山廃仕込み」は精米歩合80%。有機合鴨農法で育てられた酒米だけで作られたオーガニックの日本酒です。

少し低精白の話からは逸れますが、このオーガニック日本酒の分野はこれから更に大きな広がりを見せる分野だと個人的に思っています。日本酒の新たな魅力や価値を想像する上で、オーガニックという指標はひとつ大切な役割を果たしてくれるのではないでしょうか。

閑話休題、こちらの南遷の味わいはThe 米!

まさに米を飲んでいるというワードが出てきてしまいそうになります。

重量感すら感じさせる黄金色の液体。その容姿から熟成感もあるのかと想像するものの、立ち香にその要素はなく芳醇さが立ち昇るのみです。

そこへ入れる一片の氷、これが濃密な味わいを円やかに柔らかく、厚みの奥に隠れていた繊細な印象を照らし出してくれます。

日本酒には何も入れずに飲むのが普通という人もいるかと思いますが、日本酒はもっと自由です。型に嵌まる必要などなく、美味しく飲む方法を模索することが嗜好品である日本酒への敬意であり、飲み手の心なのではないかと思います。

日本酒って面白いですね。

それでは、今宵も良き日本酒を。
〜日本酒に愛を、酒飲みに幸せを〜
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